「反日騒動」の迷走

歌詞を書き換えて演奏できる、中国ロッ

5月4日の反日デモ
未然に終わって良かったと、ホッと胸をなで下ろした日本人は多かったと思う。ボクもその一人だ。 しかし一方で、「本当に良かったのかな?」とも思う。 「反日」に拳を振り上げた中国の若者は、もともと社会や生活環境に不満を覚えているヒトタチだ。 これに加え、ぱんぱんに充満した若者特有のエネルギー。インターネットという文明の利器を得ながら、必要な情報は無かったり歪められたりしている現実。当局によって「政府にとって都合の悪い」サイトは、たちどころに封鎖されてしまうからだ。このあたりは「もっこり君たちの不満爆発」で書いたとおりだ。
例えば、中国のパンクロッカーたち
1975年頃、イギリスで台頭したパンク・ムーブメントの起源は、もともと若者の政府や生活環境への怒りだった。 "セックス・ピストルズ"は、「神が加護するおれたちの女王は人間じゃねえ。イギリスの夢には未来は、ねえ!」と歌い、日本のパンクバンド、"アナーキー"は「何が日本の象徴だ?なんにもしねえでふざけんな!」と天皇をこき下ろした。 イギリスではセックスピストルズのレコードは発禁となったが、バンドのメンバーが逮捕されたわけではなかった。 日本に至っては「なんのおとがめもナシ」である。
しかし中国では、こうはいかない。
他の先進国に習って中国でも流行りかけた「パンクロック」は当局の手入れで、逮捕者は出る、演奏させたライブハウスは閉鎖に追い込まれる、と、活動が出来なくなってしまった。つまりかの国では、「おれたちの国に未来はない」、「党首は人間じゃねぇ」、とは歌えないのだ。「ロックはやりたい、でも、逮捕はされたくない」中国ロッカーズ達は、その歌詞に「我愛中国」と入れた。すると、当局の手入れが免除された。「"愛国"を叫べばロックが出来る」 こうして彼らは、「歌詞を書き換え」て、再びステージに登った。
これが中国ロック界の実情だ。
愛国無罪」はこうして"合い言葉"となった。 「愛国」をつければ、好きなことが出来るってことが"お約束"になったのだ。しかもこの先っぽに「反日」を入れると、それは当局にとって、よりありがたがられた。矛先が自分たちに向かわなくてすむからだ。 そういった内情から、「反日無罪」は中国人民の不文律となっていった。デモ首謀者もそれを理解した上で、日頃の不満を「反日」に代弁して騒ぎ立てた。そして、徐々に高まるその騒ぎは、本来「5月4日」にピークを迎えるはずだった。その前の「デモ」はいわば「前奏曲」か、ある種の「フライング」であった。
しかし突然、5月4日を前にして当局による「デモ禁止令」、「反日集会」は各地で解散させられ、ネットのカキコミはすべて削除された。ネットサーバーは書き換えられ、跡形もなく抹消された。 「エッチ」も、「反政府」も、「宗教」もダメ。 そのうえ、これまで唯一のはけ口だった「反日祭りもダメ」ってコトになった。
「約束がちがうじゃねえかっ!」
彼らの「失望感」は、相当なものだった、とぼくは思う。同情すらしてしまう。
だとすれば、次は「ガス抜きを失った彼らの怒りの矛先」が心配だ。

反日デモが荒れ狂っていた頃、ぼくはちょうど東京へ出張中だった。連日のニュースはこればかっりだった。 まるで、中国人すべてが日本を憎んでいるかのようにはやし、ゆきすぎた反日愛国教育のせいだと、大騒ぎしていた。
2004年1月に、英誌"エコノミスト"に掲載された記事を覚えているだろうか? 「ハルビンBMW夫人事件」である。
これはハルビンに住む中国実業家の奥さんが、BMWを運転していてトラクターと交通事故を起こしてしまい、被害者や集まってきた他の野次馬に取り囲まれたため、このご夫人はその場から逃げようと、トラクターに乗っていた農民を意図的にひき殺し、さらに12人を負傷させたという事件だ。これに対しての中央裁判は、「略式で軽い罰金刑」に終わった。
「一人を殺し、12人が重軽傷を負った事件」の判決が、「軽い罰金刑」なのだ。
この判決に不満を持つ人々が20万人も、インターネットを通じて抗議した。中国の司法システムへの不満が爆発したのだ。 同時期、「靖国参拝した小泉首相」に対するインターネットの投書は300通(中国政府発表)。
「反中国司法票 200,000」に対し、「反日票 300」
これが実情だ。 彼ら中国人は、「反日」は生活に何の影響も及ぼさないが、「中央為政者の決定」は、直接生活に響く。影響力の広さが違う、深さが違う。だから抗議も「血涙」の迫真さがある。しかし日本では、「反日騒動」は聞こえてきても、「ハルビンBMW夫人」の話は聞こえてこない。

ぼくは「ブログの秘める起爆力」の記事で、「マスコミにはバイアスがかかっている」と触れた。中国において、外信はすべて中央政府のバイアスがかかる。そのことをぼくらは、"プロパガンダ"と呼ぶ。

「中国が謝罪しない」と、日本人は怒る
「日本が謝罪しない」と、中国人は怒る
それぞれ怒りが向かうはずの場所に、しかし目指す敵はいないのかもしれない。


ぼくたちは、ケンカに夢中になっているうちに、なんでケンカをしていたのか忘れてしまうことがある。


そんな、「"怒り"のための"怒り"」になっていないだろうか?


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勝手にしやがれ」【セックスピストルズ
勝手にしやがれ!!
ピストルズ現役時代、最初にして最後のアルバム "Never Mind the Bollocks"。 このアルバムを最初に買ったのは26年前 ( ̄□ ̄;)!! だったけど、ドイツでもロンドンでも、そして一昨日、香港でも買ってしまった。 たぶん、ぼくが一番影響を受けたバンドであり、アルバムです。記事中に載せたのは、このアルバムにも収録された、"God save the Queen "。 イギリス国歌と同じ題名にして、この歌詞!衝撃でした。