なおきん、俳優と会う

香港明星と会う

前回、「日本人になりたい」でインタビューをさせてもらったコニーさんの紹介で、香港の男優さんとインタビューさせてもらうこととなった。 とはいえぼくは、大の「芸能界オンチ」。 日本の俳優やハリウッドスターですらろくに知らないぼくにとって、「香港明星」とのインタビューは、身の程知らずにもほどがある。

けれども、「だからこそ」 明星ファンの方達とは違った接し方も出来るのではないかと思ってみる。 初めて人と会うとき、むしろ余計な先入観はじゃまにしかならない。 ましてや相手は香港アイドルのひとり。まぶしすぎては、相手をろくに観察できないだろうから。

ナッツフォードテラスの一角にある新装オープンされたカフェバー。 通訳役をかってでてくれたコニーさんと共にぼくは静かに彼の登場を待っていた。 突然降り出した雨に濡れた衣服が、効き過ぎた冷房の風に冷たく乾いていく。
やがて「彼」がまわりの視線を浴びながらやってきた。 グッチだかレイバンだかの大きなサングラスにオリーブ色のタンクトップ。 長身で筋肉質の身体、注目するなという方が無理だろう。 「彼」が目の前の席に着く。少しコロンが香った。

彼の名前は、陳山聰(JOEL CHAN)28歳。 予想以上にハンサムだ。 日本で実際、若い俳優さんに会っても、「そのへんの兄ちゃんと変わらない」、といった印象があったりするが、彼の場合はあたりの香港人に比べ、「圧倒的」にハンサムだ。
ぼくは簡単に自己紹介を済ませ、今回の目的について話す。 ドラマ撮影中で超過密スケジュールにもかかわらず、たかが「個人ブログ」の記事に快く引き受けてくれたことにお礼をいう。
JOEL: 日本人にインタビューを受けるのは今日が初めてです。 前から楽しみにしていました。
「ギャラなし」なのに、申し訳ないなあ、と思う。

::: カッコイイですね

JOEL: 香港人のファッションセンスは、まだまだ日本人に追いついていません。 ぼくは日本の雑誌を参考にしたり、実際日本に行ったりしながら勉強しています
ぼくはつい、自分の着ている服に視線を落とし、赤面する。 まずは、現在出演しているドラマと、撮影中のドラマについて教えてもらった。

  • 現在出演中のTVドラマ
    • 『奪命真夫』毎夜9:00よりチャンネル TVBにて
    • JOELさんは「弁護士役」として出演中
    • 番組情報はこちら
  • 現在撮影中のTVドラマ
    • 『布衣神相』(時代劇) 放送開始未定
    • JOELさんは、「主役」で出演とのこと
::: デビューはいつでしたか?

JOEL: 1996年、17の時歌手としてデビューしました

::: フルタイムの俳優としては、いつ頃から?

JOEL: 2000年頃だったと思います

::: 誰か目標としているスターはいますか?

JOEL: トニー・レオンです

::: これまで、印象深かった役柄は?

JOEL: ヘリコプターのレスキュー隊員です。 シナリオをもらい撮影に入る前の2週間、自分なりにみっちり勉強してから役に挑みました
これまでいろんなインタビューを受けて慣れているのか、彼の回答は手際よく早い。 コトバがつまずかずに出てくる。 あるいは、ぼくの質問が「普通」すぎるのかもしれない。

::: 香港のドラマは、日本のドラマを参考にしたりするんですか?

JOEL: はい。 日本の撮影技術や演出方法はスバらしいです

::: 香港の撮影は「早い」と聞きますが、一日何シーンくらい撮るんですか?

JOEL: 20シーンくらい撮ります。 午前中は屋外で、午後は室内というふうに。 さらに、ロケーションなどの効率性から、一日3種類のドラマ撮影をすることもあります

::: 一つのドラマを制作するのにどのくらいかかるんですか?

JOEL: 早くて1ヶ月、長くても2ヶ月です (1時間ドラマで20話)

::: 意外に短いんですね。

JOEL: 撮影は、朝の6時から翌朝の4時までかかることもあります

::: ひゃあ、そりゃまたハードですね

JOEL: 撮影時間が長い方がありがたいんです

::: そりゃまたどうしてですか?

JOEL: 「主役クラス」はどうしても長くなりますから

::: なるほど・・・、じゃ主役のドラマもあるんですね?

JOEL: はい。 いま撮影中のドラマもそうです

::: 素晴らしい、影響を受けた男優とかはいるんですか?

JOEL: はい、木村拓哉です。 彼は本当にスゴイ。 どの役もぜんぶ演技こなしている。 役になりきっていると思います。 香港では、木村拓哉はとても人気があります。
たしかに、「キムタク」の人気は香港でもスゴイらしい。 女性に限らずこうして男性、いや現役の男優ですら彼に憧れ、崇拝している。

JOEL: 彼は「男優」や「歌手」だけでなく、「ファッションリーダー」としても、香港で人気があります。 ぼくも彼のスタイルをとても参考にしています。 やはり「日本文化」は香港のそれに比べ、とても優れていると思います。 もう、ぜんぜん違う!
「彼」はインタビューを通して、そう「キムタク」を称賛し、ひいては「日本文化」についても繰り返し繰り返し、褒めたたえる。 ぼくが「日本人」だからか? あるいはそうかもしれない。 しかし彼は2001年、初めて日本に行った時のことを、興奮しながら話し始めるのだ。
JOEL: 日本には10年前から、ずっと行きたいと思っていました。 街はキレイで清潔。 人々もとても親切だし、やさしい。 以来何度か行っていますが、これからも毎年1回は必ず日本に行きたい。
「そうそう、日本は最高よねー」と、ぼくの横でコニーさんも一緒になって日本賛美談に加わってくる。 ぼくはなんだか照れくさい。 しかし、他国のヒトタチが日本を手放しで称賛する気持ちに、なぜかぼくは懐疑的になってしまう・・・。
JOEL: 木村拓哉のスタイリスト、「野口強」も香港では人気がありますよ。
残念ながらぼくは、スタイリストの名前までは知らない。 「彼」もコニーさんも、ずいぶんと「ぼくの知らない日本」を知っている様子だ。「野口強・・・!?」

1時間のインタビュー予定だけど、すでに1時間を超えてしまっていた。 ぼくは気になってそのことを伝えると、「彼」は、「だいじょうぶ、もっと日本人と話していたい」という。
JOEL: ぼく、日本人の友達が欲しいんです

::: じゃ、ぼくと友達になりましょう(笑)

JOEL: うれしいな、やっと「日本人の友達」ができた(笑)
こうして、ぼくたちは友達となった。 東京でも一緒に遊ぼうということになった。 90歳のおじいさんだって、ぼくの大事な友達だ。 友達なんて「理屈」じゃない。 「そう思えばいい」だけだ。

::: ところでこれからやってみたい「役」とかありますか?

JOEL: 「精神病患者」の役をやってみたいです

::: (驚) そりゃまたどうして!?

JOEL: 誰もやりたがらないし、そんなシナリオも少ない。 性格が偏狭で、狂気のある男の役、それをやってみたい
眼光鋭く「彼」はそういう。 チャレンジ精神が旺盛なのだ。

::: 香港では「ドラマ俳優」から「映画俳優」になるのは大変だと聞きます。 JOELさんはこれまで「映画俳優」をしたことは?

JOEL: ないです。 チャンスがあればやってみたいです

::: 日本から「出演依頼」とかないですか?

JOEL: ありましたけど、断りました

::: どうしてですか?

JOEL: AV映画だったからです(笑)

::: あーなるほど(笑)

JOEL: そういえば、日本の映画に出演したことがあります

::: (あるじゃないか) 何の映画ですか?

JOEL: 「雙子」という恐怖映画だったかと・・・、 知ってますか?

::: 知りません (誰か知ってたら教えてください)
::: 香港の芸能界について、「メリット」と「デメリット」を教えてください

JOEL: (少し考えて) 香港芸能のメリットは、市場が小さいところです
これこそが、ぼくが知りたいことだった。 日本に比べ香港の人口は20分の一。 そんな分母に対し、「TV局」や「芸能プロダクション」は、果たして採算が合うのか? 香港の芸能人は日本よりは絶対数は少ないと思うが、20分の一ではないだろう。 制作費を削るにしても限度もある、俳優さんの質を保っていくためにはやはり、「資金」が必要なはずだ。 「彼」はしかし、その市場の狭さをむしろメリットとして捉えている。 なぜか?

JOEL: 浸透しやすいから、はやく有名になれます。 ぼくの所属するTVBのドラマで、トニーやアンディも育っていきました
つまり、スターへとのぼる「階段が短い」ということか? 「チャンスの間口が広い」というのは、しかし競争もそれなりに熾烈なのではないか? 「彼」ほどのハンサム男は、それほどいないとはいえ・・・。

::: デメリットは?

JOEL: 新人タレントが現れやすいので、古い俳優がどんどん投打されます。 出演のチャンスがどんどん減っていきます
もちろん、香港に限らずどこの国の芸能界もそのリスクはある。 けれども香港社会はいい意味でも悪い意味でも、「移り変わりが早い」ように思う。 やはり人口という分母が少ないため、「じっくり才能が開花するのを待つ」ファンもまた少ないのだろう。 善し悪しかかわらず、やはり香港は「ベンチャー気質」なのだ。 芸能界も例外ですまされない。 かつ、日本に比べ圧倒的に視聴者が少ない香港、スポンサーから集められる金額も知れている。 果たしてどうやって採算を合わせていくのか?
JOEL: ドラマが放映されるのは「香港」だけではないんです
香港ドラマは、こうして制作されたドラマ放映権を、まずカナダに、そして、マレーシア、シンガポール、台湾へと売り、最後に香港で放映するのだという。 いずれも華僑や海外長期滞在者の多い地域だ。 なるほど、それだけの市場を鑑みれば制作費もペイすることがうかがえる。

「彼」の目は誰かに似てると思った。 あの、「ラストサムライ」でハリウッドでも認められた 「渡辺謙」だ。

渡辺謙
「彼」はひょっとしたら「名悪役」、「好敵手」のような役で、大当たりするんじゃないか? とそのとき直感した。 おそらく30代後半か40代前半。 若いハンサム男優特有の軽さがしっとりと落ち着き、男の芳香がわざとらしくなく漂い始めるころだ。 それまでに何年も待たなければならないが、「うつろいやすい香港の視聴者」がそれまで待ってくれるだろうか? いや、待っていて欲しいと切に思った。

「いつか東京の映画館で、JOELさんを鑑賞したいなあ」
ぼくがそういうと、「彼」はこくりとうなずき、照れくさそうな笑みがこぼれた。

▼ インタビューを終えて

ハンサム男優がとなりだと、つい気張ってしまう「なおきん」。 ばかだよねー。JOELさんは、とてもさわやかな香港青年。日本のサブカルチャーを愛し、日本人のやさしさを称賛してやみません。 「でも、日本人男性はスケベですね」 ておい、なんでわかっちゃうんだよ!?(笑)