「香港イラ写日誌」、最終回

開店準備のなおきん

「香港イラスト写真日誌」というブログを人知れず開設したとき、ぼくは 「小さな小さなお店」 を開店した気分だった。 小さなテーブルと丸椅子だけの急ごしらえのお店。 扱う商品も決まってなかったけど、「カンバン」をきちんと作り、チョット迷ったが「店主の顔写真」も隠さず掲げた。 見知らぬヒトに「何か新しいモノ」を伝えるとき、「イメージ」をボヤけさせてはいけない、と思う。 これはぼくのささやかなポリシーだ。

開店当時、数人がくれば満席だった「イラ写店」も、しだいに数十人、数百人と読者が増えていった。 「お店」はてんてこ舞いだったが、ぼくは楽しくて仕方なかった。 気持ちのいいヒトが次々にやってきては、「寄せ書き」のようにメッセージを残し、そこにぼくとの間で対話が生まれた。 コメントにはまた、 「お客さん同士の会話」 も広がり、「会話」も増えていった。

脈絡のない「記事」ではあったけど、ぼくはいつも「ダレか」を頭に浮かべ、その人に向かって書いていた。 その「ダレか」は、ここにコメントを残す「あなた」だったり、コメントは残さないけどちゃんとここへ来てくれている「あなた」だったりした。 古くからの友人の「あなた」であったり、さいきん気の置けない「あなた」。
こうして「みんな」や「全員に」ではなく、あくまでも「ダレか」に向かい、「そのひとの顔」を頭に浮かべながら、ぼくは夜を徹して記事を書き続けた。
だって、この世に 「その他大勢」っていう人物は存在しないし、「顔のない」人間なんて存在しないから。

イラ写を開店してから133日間。 その間、ぼくは普段より少し「積極的」な生活をおくることができた。 それは、ブログを続けるために必要な「ネタ探し」という目標があったからなのかもしれない。 普段立ち寄らない店へ行き、会わなかったであろうヒトに会う。 普段思い出さなかった過去を振り返り、読まない類の本を読む。
ぼくは思うのだけど、 「達成したい目標」があれば、ヒトはいつもより「積極的」になれる。 元来人見知りで臆病なぼくが、いつもよりほんの少し積極的になれたのは、「ブログを毎日欠かさず続ける」という「目標」があったからでもある。
「書く」という行為を「アウトプット」と定義すれば、ブログは自分に「蓄積されているもの」を書き出す行為といえる。 「香港」について書こうと思えば、「香港の知識」が自分に蓄積されていないといけない。 そこで「香港」を知ろうと「本を読む」、「誰かに訊く」、「いろんな場所に行ってみる」、「いろんなモノを食べてみる」、その行為は「アウトプット」があって初めて達成される「インプット」といってしまおう。
「アウトプットの機会」あれば、「インプットの機会」も増える。
「アウトプットの質」が上がれば、「インプットの質」も上がる。
「個人メディアとしてのブログ」があれば、ぼくたちはもっといろんなことを知ろうと思うし、いろんな場所に行こうと思うはずだ。 「誰かに旅の土産話」がしたくて旅に出かける動機があるように、ブログがあるから、出かける旅もあるかもしれない。 パソコンを始めようとマニュアルを読んでいるうちにイヤになったヒトも、ブログを始めようと、再びパソコンに火をともしたヒトもいるかも知れない。
ブログを通じて「出会う機会」や「得る知恵」が増えるのは、その意味で当然の成り行きかも知れない。


一方、誰かが「したり顔」で語ったり書いていたりするように、世の中はぼくが普段感じている以上に 「くそったれ」 なのかもしれない。 彼(女)らがいうように、世の中には思わぬ「落とし穴」があちこちに掘られていて、実際そこに落ちたぼくを笑う人達もいるのかもしれない。 けれども、そんな人達よりも「そうじゃないダレか」のほうがはるかに多いことを、ぼくは「イラ写」を通じて学んだ。 「楽しいことは連鎖」することを、ぼくは来る日も来る日も実感することができた。 むしろ世の中は、「ダレかのために生きたい」と願い、「楽しいことをダレかと共有」したくて仕方のないヒトタチの方がはるかに多いんじゃないか? と思う。
「イラ写に登場したヒト」もそんなヒトタチのひとりひとりだったし、「ブログランキング」で「ミラクル逆転一位」となったとき、それをまるで自分のことのように喜んでくれた読者のひとりひとりもそうだと思う。



あの時始めた 「小さなお店」 は、こうして育っていきました。
歩くことが楽しくて仕方のない「赤ん坊」のような「お店」でした。
「笑ったり」、「泣いたり」と、喜怒哀楽の激しい「お店」でした。
ネットなのに、ちっとも「無味乾燥的」じゃ、ありませんでした。
むしろ日常よりも、「人間くさいお店」でした。
「記事本文」よりも、「コメント」が長い「お店」でした。
その意味で、「店主」よりも、「読者」が主役の「お店」でした。




いまアタマの中では「蛍の光」が流れています。



ご来店いただき、まことにありがとうございました。
開店以来、133日間休まず営業を続けて参りましたが、本日をもちまして、「イラ写香港店」は一切の営業を終了させていただきます。

ご来店いただき、まことにありがとう・・・
さようなら








またどこかで、「あなた」と会えることを、
とてもとてもとてもとても
楽しみにしています。




もういちど




こんなちっぽけな、「お店」 を最後の最後まで盛り立ててくれて、ほんとうに、ありがとうございました。






涙、涙、涙 ・・・・











あれ・・・・




なんだこれ?
ぽちっと
すんのかな?