多重国籍な香港人

パスポート

「あなたはいくつパスポート持ってるの?」
車で移動中、某会社の経営者をやっている香港人女性は、まるで趣味を聞くような気軽さで、ぼくにそう聞いてきた。もちろん、ぼくは一つしか持っていない。そういう彼女は、香港、中国、カナダのパスポートを保持しており、これを訪問国に応じて使い分けているという。なんだかスパイ映画のようだ。
2004年度の日本への香港人旅行者は、過去最高の56万8000人だったという発表があった。 でも前述した彼女のように、ビザ解禁*1まではカナダ国籍で日本へ入国し、昨年から香港パスポートで入国するようになったという香港人(といっていいのか?)もいるから、少々間引きが必要かもしれない。
香港人は中国(本土)人に対して独特の距離感を持っている。「不潔だ」「横暴だ」「ルールを守らない」「道に痰を吐く」などと軽蔑する。ぼくが香港にきたときは、香港はすでに中国に返還されていたから、当然香港に住んでいる人も中国人だろうと接していると、「私は香港人だ」と幾分腹を立てながらそう言う。「もし私が中国人なら、あなたら日本人も台湾人も中国人ということになる」。そんなめちゃめちゃな論理を主張されチョット引いてしまったが、要するに「中国人と香港人は違うし、香港はより洗練されている」ということを言いたかったのだろう。それを確認することで、自らのアイデンティティを維持してきたのかなあと思うようになった。
前述の香港女社長の話に戻る。
「香港は歴史が浅いし小国です。アメリカに対しては中国人、日本に対してはカナダ人、中国に対しては香港人。そうなれるのはそうでないよりも自由かもしれません。」 でも・・・と彼女は続けた。「パスポートがいくつも持てることよりも、ひとつだけ強いパスポートを持っているあなたがうらやましいです。」
本当にそうだろうか? でも、パスポートは資格ではなくアイデンティティを証明するものと言い切れば、シンプルであるに越したことはない、と思う。
自分が何者であるかわからなくなるとき、人はきっと不安に思うだろうから。

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  • *1:2004年から、香港人は日本への観光ビザが免除された