雑誌インタビュー(その2)

ふたりの男は、約束通り3時半、ぼくのオフィスにやって来た。
そのうちの一人は知っている、取材記者のチャン氏。もうひとりの男はカメラマンで、こちらも「チャン」だと紹介される。
チャン氏とチャン氏。二人揃って、「いきなり "おひらき" かよ!」ってなコンビ名だ。
ケリーがふたりを会議室へと案内する。なんだか仕草が、いつもより女らしい。(だが取材は、悪いがオマエじゃねぇ)と心の中でツッこみながら、ぼくもあとから会議室へと入り、後ろ向きにドアを閉める。記者のほうのチャンはノートとペンをテーブルにきちんと並べて置き、カメラマンのチャンは、まるで保育器から赤ん坊を抱きあげるように、一眼レフカメラをケースから取り出す。そして足場を確認してからこちらにレンズを向け、構える。まるで報道カメラマン気取りだ。
ボイスレコーダーはない。「ギャラは出ないな・・・」 ぼくは、そう直感したが、それは事実そうなった。
「香港に住む日本人を特集するんです」とチャン氏は言う。ぼくはうなずき、「なぜ、日本人なんですか?」と逆に訊く。
チャン氏は「さぁ?」と言う顔をする。「韓国人では、だめなんですか?」と追い打ちをかけるぼくに、緊張した顔をちらりと向ける。
「韓国人は嫌われてますから・・・」
と別のほうのチャンが代わりに答えた。「日本人だって・・・」と言いかけてぼくは、やはりやめておいた。
こんな風にして、雑誌のインタビューは始まった。
出身地の広島のこと、香港に来る前のドイツ生活のこと、香港での仕事内容、香港の滞在期間、香港に来た理由、チャンは矢継ぎ早に質問をあびせる。これじゃまるで「入国審査」じゃないか。ぼくは足を組み替え、あくびをかみ殺す。会議室のガラス越し、こちらをうかがっていたケリーと目があった。「心配するな。オマエの取材は、ない」
「香港はスキですか?」
やっと取材らしい質問で、場の雰囲気がいくぶん和やかになった。「カシャーン、カシャーン、カシャーン・・・」 シャッター音が小気味よく部屋にコダマする。
「はっきりいって、キライです」
とは、答えない。ぼくは模範的なガイジンなのだ。

インタビューは、きっちり1時間で終わった。
心配しつつも、どこか期待していた、例の「反日騒動」にはついに触れることはなかった。
「あのぉ、これからちょっと時間ありますか?」チャン氏は、まるでトイレの場所をたずねるように、そう訊く。 次のアポは5時、まだ30分ほどある。 そう伝えると、二人のチャン氏は揃って、外で撮影させてもらっていいですか?と伺う。ぼくはうなずく。眠気覚ましに、ちょうどいい。
3人揃ってオフィスをでると、促されるまま、アドミラリティの高層ビル街のほうへ歩き出す。徒歩7分、あらかじめ撮影場所の下見は済んでいた様子で、ホーミングミサイルが目標に吸い込まれるよう余念なく、「撮影場所」へ向かった。

ぼくは高層ビルをバックに勝手気ままにポーズを、とる。カメラマンのチャンはくねくねカラダを動かしながら写真を、撮る。記者のチャンはなぜか「うんうん」うなずきながらメモを、取る。

ぼくはサービスのつもりで、
マリリン・モンローの地下鉄通気口のポーズ」をしてみる。「うわぁお!」と声まで出してみたのに、二人とも笑いもしない。近くにいたヒマそうな警備員が、代わりにぷぷっと笑う。ジェネレーション・ギャップか?

40回くらいシャッター音を鳴らしたあと、撮影は無事終了。カメラマンのチャンが液晶モニターで、撮られた「ぼくの姿」を見せてくれた。



なんと、「マリリン・モンローのポーズ」もそこにあった。











笑いもしなかったのに、ひどいと思う。


「こっちの写真」が雑誌に掲載されたら・・・・!?
と思うと、ちょっと今夜は眠れそうに、ない。



眠れちゃった、けど。





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