少林マッサージ

naokin_hk2005-02-23

『グキッ』
『ゴリリ・・・』
『ビリビリビリ・・』
ぼくは上半身裸で、表返し裏返しとされるがままの状態で激痛に耐えている。
スキンヘッド男は、恐るべきその怪力で容赦なくぼくの肩を揉みしだき、腕をねじ上げる。 「(痛えぇっ)・・・!」 しかし本当に痛いときは声なんて出やしない。

数ヶ月前、ぼくは無理なストレッチをしていて頸椎を傷め、その影響でほとんど右手が使えず、毎日痛みに耐える日々を過ごしていた。 夜は激痛のため眠れず、昼も激痛のため仕事に集中できない。 いっそ肩からぶった切って、どこかに捨ててしまいたい気分にすらなった。 もちろん、その間なにもせず痛みに耐えていたワケじゃなく、香港の有名どころの病院はひととおり行ってみた。 いろんな色や形の薬をもらい、様々なマッサージを試してみた。レントゲン写真を何枚か撮り、首にベルトを巻かれてつり上げられたりもした。大柄で筋肉質の女医さんにも会ったし、オカマの老医師にも出くわした。それでも痛みは治まらなかったし、眠れない毎日は続いた。

そんな折、見かねた香港人の友人が、跌打骨傷院*1を紹介してくれた。さっそく、もらった名刺を頼りに深水歩のライチーコック通りに出かけることにした。「とても痛いそうだよ。」と友人は言い、「かまうもんか」とぼくは思った。

その店は早くもただならぬ雰囲気を漂よわせていた。せまい店(院)内はお経が流れ、線香のにおいがたちこめている。壁には大仏の写真と、少林寺拳法っぽい映画のポスター。「やっぱり帰ろう」と腰を上げかけるぼくに、スキンヘッド先生はにっこりと微笑みかける。首には大粒の数珠が巻かれていた。こうして初診が始まり、下された診断結果は頸椎ヘルニア。14日間毎日欠かさず通ってマッサージを受け、漢方薬を処方すれば治るとのこと。「一日でも治療を欠かすと、最初からやりなおしです。」彼は神妙にそういい放ち、ぼくは「もう、好きにしてください・・・」と身を預けることにした。
それから地獄のような毎日が始まった。毎朝9時にそこへ行き、冒頭にあるような激しいマッサージを受け、飛び上がるほど強い電気パルスをあてられ、仕上げに肩から腕先にかけてヘンな臭いのする漢方薬をべったり湿布された。その上を包帯でぐるぐる巻きにされ、満身創痍のボクサーのような格好のままそこへ通い続けた。それから2週間もの間、毎朝怪力マッサージの激痛に脂汗を流し涙を浮かべた後、不思議なことにピタリと痛みは治まり痺れは止まった。 スキンヘッド先生の予告通り、14日間で治ってしまったのだ。

そのスキンヘッド先生はむかし、映画の俳優をしていたそうで、壁のポスターも彼が若い頃主演していた映画のシーンだという。今も時々生徒に少林寺拳法を教えているだけに、歳のせいかいささかだぶつくおなかが目立つとはいえ筋骨隆々。でなけりゃ、あの怪力マッサージはできないだろう。ポスターを見る限り当時はかなりハンサムで、香港有名女優と濡れ場まで演じたという、とってもうらやましいお方だったのだ。「ホントにキミかよ!?」といぶかしげるぼくに、「ならば」と渡されたVCD。あとで家に帰って観てびっくり!あのスキンヘッド先生が主演で、しかも特撮やスタントマンなしで過激な格闘シーンを演じている。映画自体*2も思ったより本格的で、アヘン戦争時代の清朝、あの紫禁城まで登場していた。(イラ写は彼の演じる格闘シーン)

あれから数ヶ月経った今でも、「映画では、あの手で大勢の敵をこてんぱにやっつけていたんだなあ。」と、怪力マッサージの感触を思い出しつつ、右肩をなでてみるのであった。

*1:中国式接骨院、または鍼灸院。漢方薬も調合してくれる

*2:武牀元, 鉄橋三【1996年香港作品】