ビジネスランチ

香港のビジネスランチ

日本や欧米だと会議室でやるようなミーティングも、ここ香港では「円卓を囲んで」おこなわれることがしょっちゅうだ。
いわゆる「ビジネスランチ」である。でも、他とチョット違うのは、「ランチタイムに限らない」のと、「長いときには3時間かける」ということだろうか。
先日、福建省と台湾からそれぞれ来訪者を囲み、それは行われた。「行われた」なんていうと、厳粛で荘厳な感じもするが、実際はそんな空気はみじんもない。木っ端みじんにない。みんなわいわい集まって、ぎゃーぎゃー話して、ばくばく食べて、がぶがぶお茶飲んで、「わっはっは!」と人の肩ばんばんたたいて、おしまいである。 隣の円卓にいる団体旅行客同様、そのへんのオッサン、オバサンの衆にしか見えない。
しかしもらった名刺には、やれCEO*1だのCTO*2だの高級管理主任だのスゴイ肩書きの人ばかり。要は会社の決裁権をもった人たちなのだ。「いいからその前に鼻毛切れよ、社長」てな気分だ。
肩書きもスゴければ飛び交う言語もこれまたスゴイ。"広東語"、"北京語"、"福建語"、"英語"、"日本語"、"台湾語"・・・。 日本人はぼくひとりだったが、台湾からのCEOが日本語しゃべるもんだから、これも飛び交う。一方で、「おまえ何しに香港来たんだよ!」っていうくらい、ずぅーっと食べてばかりのオバサンもいる。聞けば福建省からきたCTOの奥さんだという。肩書きにはCOO*3とある。「旦那よりエライのかよ!」(この会社、来年米ナスダック上場を目指していることから、英語の肩書きにしているそうな)
こうして老いも若きも、ずるずるスープをすすり、腸粉をべろべろと口に放り込み、ハトの頭をばりばり咀嚼しながらも、業務提携やプロジェクトの進行方法などの議題がひとつひとつ片付けられていく。 意見がまっぷたつに分かれ、「あわや一発触発か!」ってときも、「チャーシュー包、お待たせぇ〜」を間を割ってせいろがダンっとテーブルに置かれると、あちこちからぬーっと手が伸びてきて、「まあまあ、お先にどうぞどうぞ」と言い合いながらも、もぐもぐとそれを食べ始める。
こうして2時間30分のビジネスランチは終わり、このあと福建省からの人たちは市内観光へと地図を広げ、台湾人たちとぼくは広州へと、まずはタクシーを拾う。
「アナタの名前は珍しいですね。 タマゴッチに発音が似てますね」
車内で、台湾の社長がぼくの名刺をつまんでそう笑う。
「びっぼっ、びっぼっ、びびびび・・・、ほら、タマゴッチ、知ってますか?」 返す言葉のないぼくに、彼はとことん明るく、よどみのない日本語でしゃべる。70過ぎなのにこのパワー。生まれたとき、自分は日本人だったという。日本統治時代に少年時代を過ごした人だ。
名刺にしょうゆダレのシミがついていた。


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  • *1:チーフ・エクゼクティブ・オフィサー/最高経営責任者/代表執行役

    *2:チーフ・テクニカル・オフィサー/最高技術責任者

    *3:チーフ・オペレーティング・オフィサー/最高執行責任者